・ 日本競泳陣の悩み
世界新を連発する英スピード社製水着を着るか、国内3社の水着で臨むか。8月の北京五輪に向けて、日本競泳界が悩み続けている。
本番まであと2カ月あまり。試した選手は軒並み好記録。有力選手は少しずつ、スピードの水着にかじを切りつつある。
16~18日、五輪日本代表が相次いでスピード社製最新水着「レーザー・レーサー」を試した。米カリフォルニア州のサンタクララ国際大会では、奥村幸大(イトマンSS)が1分47秒70の男子200メートル自由形の日本記録をマーク。
自身の予想より2秒も速かった。国内では女子背泳ぎのメダル候補、伊藤華英(セントラルスポーツ)と中村礼子(東京SC)が、泳ぎ込みの時期にもかかわらず自己記録に迫った。
中村や北島康介(日本コカ・コーラ)を指導する平井伯昌コーチは「この時期にこんなタイムが出るわけない」。
日本水泳連盟はミズノ、アシックス、デサントの国内3社と水着提供の契約を交わしている。基本的に代表はいずれかの水着を着る約束だ。
そこへ高速水着の評判。日本水連は30日までに3社に水着の改良を求め、6月10日には最終結論を出すとしている。
北島はミズノと個人契約を結ぶ。練習が一番としながら「(速い水着には)選手みんなが興味がある」。ミズノの水野明人社長は「(スピード社製を)認めるとか、認めないとか言える立場にない」と気をもむ。
日本オリンピック委員会の福田富昭・選手強化本部長は、競技団体の強化担当者を集めた会議で「速いとわかっていて何で使わない」。
ある選手は「五輪には人生がかかっている。0.1秒でも速い水着を着たい」と訴えた。日本水連の上野広治・競泳委員長は「選手には要望する水着を着させてあげたい」。
日本水連とメーカーの契約が破られた例がある。88年ソウル五輪の男子100メートル背泳ぎ決勝で、鈴木大地は指定メーカー・ミズノの水着ではなくデサント製で金メダルを獲得した。
好記録を出したことがあったデサント製でゲンを担ぎたいとした鈴木の思いを、監督らが尊重した。
ペナルティーは何もなかった。
北京五輪でも、日本水連と国内3社の契約では他社製水着を着ても違約金などは発生しない。
選手やコーチは、着々とスピード社製水着を着る方向へシフトしているように見える。
アテネ五輪男子100メートル背泳ぎ銅メダルの森田智己(セントラルスポーツ)らを指導する鈴木陽二コーチは「五輪まで時間はない。(国内3社の改良水着と、スピード社製水着の)二本立てでいかないと」。
レーザー・レーサーを着こなすには時間がかかる。慣れないと体が浮くと感じて前半から飛ばし、後半バテる。
背泳ぎではスタート直後に潜水するバサロがよく進むため、従来と同じキック数だと潜水制限の15メートルを超してしまう。
国内3社に対する不信感も大きい。スピード社は今年発表したレーザー・レーサーと基本構造が同じ水着を、07年春の世界選手権ですでに製作していた。
これも世界記録を連発した。にもかかわらず、国内3社は対策を取らなかった。あるコーチは「たとえ改良したと言われても、今さら信じられない」。
外国選手にもレーザー・レーサーは大人気だ。奥村が出場した大会では、水着をレンタルしたスピード社のブースに30~40分待ちの列ができたという。
北島のライバルで、米ナイキ社と個人契約するハンセン(米)もこの水着を試して優勝した。
スピード社製で五輪に臨むカナダ水連は、この水着を持っている人と持っていない人との公平さを保つため、代表選考会では着用を禁止した。
ウエットスーツ用素材メーカー大手の山本化学工業(本社・大阪市)は、厚さ0.3ミリのラバー「SCSファブリック」を開発し、3社に素材を提供して注目を集め始めた。
表面に水分子を集めるミクロ単位のくぼみをつくった半球状の構造を採用。水着表面を水で覆い、表面近くを流れる水との抵抗を限りなくゼロに近づけた。
00年シドニー五輪のトライアスロンでは山本化学の素材を使ったウエットスーツ着用の選手が表彰台を占めたという。
規定の水温を超えるとウエットスーツの代わりに水着を着るルールがあり、選手たちが水着用素材もつくるよう求めたのが開発のきっかけだった。
この素材が、国内メーカーの救世主になれるのか。日本水連関係者は期待を寄せる
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